2022年4月1日から、中小企業でもパワハラ相談窓口の設置義務がスタートします。大企業では2020年6月に一足先に実施されたパワハラ防止法とは、どのような法律なのでしょうか?それに伴い、中小企業がしなければならない準備などを解説します。
施行までまだ時間があると思っても、2022年3月までは努力義務期間となっているので、できるだけ早目の対策をしておきましょう。
パワハラ防止法とは?
では具体的に、パワハラ防止法がどのような法律なのか見ていきましょう。
パワハラ防止法の内容
パワハラ防止法とは通称で、正式には「改正労働施策総合推進法」と言います。正規・非正規を問わず、すべての労働者に対する職場でのパワーハラスメントを防止するというもの。
2007年に「雇用機会均等法」が改正されたことに伴い、セクシャルハラスメントやマタニティハラスメントの防止対応措置として、企業は相談受付窓口を設けることが義務付けられました。
今回、パワハラ防止法の施行の際にも、企業には相談窓口の設置が義務化され、同時にハラスメントを相談したことを理由に、不利益な扱いをすることも禁じられています。
パワハラ防止法の対象は?
正規雇用労働者・非正規雇用労働者を問わず、パワハラ防止法は適用されます。「職場におけるパワーハラスメント」の、“職場”とは、従業員が通常勤務しているオフィスに限らず、外出先や客先、飲み会やイベントなど懇親の場、サテライトオフィス、テレワークなど、業務を行うすべての場所を指しています。
パワハラ防止法の罰則は?
パワハラ防止法が施行されるとはいえ、必要な対策を講じなかった企業に対して特に罰則は設けられていません。
ただし違反した企業には、厚生労働省から助言・指導・勧告がなされ、それでも改善されない場合には、企業名が公表されることもあります。
具体的な罰則はなくても、法令は遵守しましょう。
パワーハラスメントの定義
パワハラ防止法をどのように実行するか考える前に、ここで言う職場におけるパワハラとはどのような行為を差すのか、定義を見ていきましょう。
職場のパワハラの概念
厚生労働省では、パワハラの概念として以下の3つすべてを満たすものとしています。
- ①優越的な関係を背景とした言動であること
- ②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものであること
- ③労働者の就業環境が害されるもの
さらに、さまざまなパワハラの状況から、代表的な言動の類型として6種類を挙げています。
- (1)身体的な攻撃(暴行・障害)
- (2)精神的な攻撃(脅迫・名誉毀損・侮辱・暴言)
- (3)人間関係からの切り離し(隔離・仲間外し・無視)
- (4)過大な要求(業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの矯正・仕事の妨害)
- (5)過小な要求(業務上の合理性なく、スキルや経験とかけ離れて程度の低い仕事を命じる、仕事を与えない)
- (6)個の侵害(私的なことに過度に立ち入ること)
参照元:厚生労働省「職場におけるパワーハラスメント対策が事業主の義務になりました!」
具体的な例を挙げると、大勢の前で叱責したり、全員が見る機会のあるメールなどで暴言を吐いたりするのは(2)の「精神的な攻撃」に当たります。
ある社員だけを会議や打合せから外したり、仕事を割り振らなかったりするのは(3)の「人間関係からの切り離し」、英語が話せない社員にアメリカ勤務を命じたり、資料作成を行うために休日出勤を強いられたりするのは(4)の「過大な要求」となります。
パワハラ防止法の対策について着手すること
パワハラ防止法の施行に伴い、すべての企業にハラスメント相談窓口の設置が義務付けられました。相談窓口は、相談に対して適切な対応ができることが大切です。もし対応に失敗すると、裁判などのトラブルに発展することもあるため、しっかりと対策を講じましょう。
企業が着手しなければならない3つのことを説明します。
1.事業主によるハラスメント防止宣言と周知・啓発
企業トップが、パワハラを絶対に防止し、ハラスメントを断固として許さないことを宣言します。もしハラスメントが起こった場合は、迅速に対応し、被害者を守ること、防止に努めることを社内に発信。外部にもハラスメント防止対策をしていることを周知させましょう。
企業として、パワハラ防止の強い意志を示すことで、従業員に安心感を与えるとともに、どこに相談すればよいのかを明確にできます。
2.パワハラ相談窓口の設置
まずは、前述の宣言を社内規定に「ハラスメント防止・相談対応規則」として記載します。就業規則として全従業員がすぐに閲覧できるようにします。
相談窓口は、わざわざ専任の部署を新設する必要はありません。相談員を兼任できる部署に設置することで十分で、総務部や人事部などが適任。社内にコンプライアンス委員会が設置されている場合は、委員のうち誰かが兼任するのもいいでしょう。
相談窓口の人員としては、部課長レベルの責任者1名、少なくとも男女1名ずつの相談員で構成するのが望ましいです。
3.ハラスメントが起こった後の迅速かつ適切な対応
相談窓口は、設置するだけではいけません。相談や苦情があった場合に、きちんと対応できなければ大きなトラブルに発展する可能性もあります。
適切な対応ができるようになるためには、相談員は以下3つについての基本的な研修や訓練が必要です。
- コンプライアンス(法令遵守)の意識
- セクハラ・マタハラ・パワハラの知識
- 相談を受けるスキル
勉強法としては、厚生労働省など公的機関によるガイドラインやマニュアルをインターネットで閲覧することができます。
相談を受けるスキルについては、相談者の話を真摯に聞くこと、そして相談者の意向を的確に把握することが大切です。相談者は心理的に不安定な状態である場合が多いので、忍耐強く安心して相談できるよう時間帯や場所などを工夫しましょう。
また、相談者、行為者に対する適切な措置も取る必要があります。事実関係の確認や、周囲への調査が必要になった場合など、プライバシー保護にも配慮しなければなりません。
さらには再発防止にも努めていきましょう。
相談窓口の種類
ハラスメント相談窓口はいくつかの種類がありますが、重要なのは相談者が相談しやすく、プライバシーが守られ秘密を厳守できることです。社内窓口だけでなく、複数の相談方法を準備しておくのもいいでしょう。
内部相談窓口
前項で述べたように、社内の人事部や総務部などで兼任してもらい、社内に設置する相談窓口。
中小企業の場合は、相談者をよく知っていることも多いので、連絡方法の工夫や話しやすい雰囲気を作ること、相談する場所の確保が大切です。
内部相談窓口では、相談に行ったこと自体が周囲にわかりやすいので、相談方法も対面だけでなく、メールや電話などで相談を受け付けることも考えておくといいでしょう。
外部相談窓口
社内に窓口の設置が難しい、内部相談窓口だけでは十分に対応できないという場合には、外部委託の相談窓口を検討してみましょう。
ハラスメント対策に詳しい法律事務所や社会保険労務士などと契約し、設置することが可能。ただし契約には費用がかかります。
会社に知られず利用できる相談窓口
外部委託の相談窓口ですが、被害者が会社に知られずに匿名で相談できるよう考えられたサービスがあります。
企業が委託先と契約すると、企業別のIDが発効され、相談者は会社を通さずにメールや電話で相談ができます。
人数の少ない中小企業では、さまざまな人間関係の障害があって、ハラスメントに遭っても相談しにくい場面が多々あります。被害者が泣き寝入りしなくていいよう、企業としてはこのような外部委託型の相談窓口を設けるのも、従業員を安心させる材料となるでしょう。
まとめ
ハラスメント相談窓口では、今回施行されるパワハラ防止法だけでなく、セクハラやマタハラの相談も受け付けることになります。
相談員には知識やスキルが必要になるため、2022年4月1日の施行に間に合うよう、早目の準備をしましょう。