毎月給料をもらっていて、毎年昇給していても、意外にその仕組みをきちんと説明できる人は多くありません。
日本ではメジャーな「定期昇給」と「ベースアップ」の違いも、知られていないことが多いのです。
働く身としては、直接自分の収入に関わることなので、しっかり理解しておきましょう。
今回は、ベースアップと定期昇給の違いや、それぞれの問題点などをまとめました。自分の給料が、将来どのようになるのか見極めてみましょう。

ベースアップと昇給の違い

まずは基本的な「ベースアップ」と「定期昇給」の違いをしっかり理解しましょう。混同していることもよくありますが、まったくの別物です。

定期昇給とは?

日本の企業で多く採用されているのが「定期昇給」です。会社の“制度”として定期的に昇給の機会があることを言います。この場合、上がるのは「基本給」なので、基本給をベースとしたボーナスや退職金などにも影響することになります。
昇給の時期は会社によってさまざまですが、年度はじめの4月に年1回または、4月と10月の年2回が一般的です。

定期昇給制度がある企業では、年齢や勤続年数が上がっていくのに比例して、基本給が右肩上がりとなるので、社員の基本給をこの「賃金カーブ」を基準にしています。
日本では長く終身雇用制、年功序列型の賃金体系であったため、年齢や勤続年数に基づいた「自動昇給」が多く採用されていました。

ところが終身雇用制の崩壊、定年の延長、年功序列の廃止など、社会的な背景もあり、定期昇給を見直す企業も増えています。

ベースアップとは?

ベースアップとは、「ベア」と省略されることもある和製英語で、賃金カーブとは別に基本給が上がることです。定期昇給との大きな違いは、ベースアップは「社員全員の基本給が上がる」こと。

例えばベースアップが1%あると、基本給220,000円の社員は2,200円基本給が上がり、基本給300,000円の社員は3,300円上がるということですね。

ベースアップの法的義務と必要性

ベースアップや昇給には法的な義務があるのでしょうか。また必要性があるとしたら、どのような場合なのでしょうか。

ベースアップ・昇給の法的義務

結論から言えば、ベースアップも昇給もしなければならないという法的な義務はありません。極端な話をすると、企業は昇給またはベースアップをしないという規定を作ったとしても違法ではないということになります。

ただし、就業規則には「賃金の昇給に関する事項」を定める必要があるので、定期昇給がある場合には時期や回数などを記載し、ない場合には、昇給がない旨を記載しなければなりません。
また会社の業績が悪いなど、「やむを得ない場合には昇給しない」と定めることもできるので、就業規則に書かれていることはよく確認しておきましょう。

ベースアップの必要性があるのは?

賃金を決めるために重要なもののひとつに「最低賃金」があります。最低賃金とは、使用者が労働者に支払うべき最低限の賃金額を定めた制度で、2つの種類があります。
「地域別最低賃金」は、各都道府県に1つずつ定められおり、産業や職種に関わりなくすべての労働者と使用者に対して適用されます。

「特定最低賃金」は2020年4月時点で特定の産業228件について最低賃金が定められているものです。
どちらにも該当する場合には、使用者が高い方の最低賃金額以上の賃金を支払う必要があります。

さて、ここでベースアップの必要性に戻ります。

最低賃金は毎年見直されています。長い間、基本給をベースアップしていない企業に勤務している場合は、最低賃金を下回っていないかしっかり確認しましょう。
最低賃金以上の賃金が支払われていないと違法となり、企業側は罰せられます。また、最低賃金に満たない賃金だった期間の差額分を支給しなければなりません。

最低賃金は、基本給と諸手当が対象となっています。通勤手当、家族手当、残業、賞与、皆勤手当などは対象に含めずに計算します。

詳しくは、厚生労働省の最低賃金の計算の仕方を参照しながら、最低賃金を上回っているか確認してみてください。
万が一、最低賃金以下の場合には会社はベースアップをしなければなりません。

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昇給の平均額

企業の規模や産業によって、昇給額も違ってきます。昇給額の平均を比較してみましょう。

【企業規模別】昇給平均額

2020年度の企業規模で見た平均昇給額は以下の通りです。

企業規模平均昇給額
5,000人以上6,790円
1,000〜4,999人5,722円
300〜999人5,204円
100〜299人4,977円

参照元:厚生労働省「令和元年賃金引上げ等の実態に関する調査の概況」

企業規模が大きいほど、昇給額も大きいことがわかりますね。これは後ほど詳しく説明する「春闘」にも関わることですが、規模の大きな企業ほど労働組合がしっかりとあり、会社側との話し合いがなされることが多いと推測できます。

産業別・昇給額ランキング

産業別に昇給額のランキングを見てみましょう。

  • 1位:建設業 8,261円
  • 2位:不動産業、物品賃貸業 6,909円
  • 3位:情報通信業 6,705円
  • 4位:製造業 5,724円
  • 5位:金融業、保険業 5,585円
  • 6位:卸売業、小売業 5,401円
  • 7位:電気、ガス、熱供給、水道業 5,023円
  • 8位:運輸業、郵便業 4,777円
  • 9位:教育、学習支援業 4,696円
  • 10位:生活関連サービス業、娯楽業 4,306円
  • 11位:宿泊業、飲食サービス業 4,163円
  • 12位:医療、福祉 3,798円

産業別では、1位と12位には4,000円以上の差があり、業種によって昇給額も大きく異なることがわかります。1位と2位でも1,352円の差があるので、業界の特徴や景気の動向を見極める指標になるかもしれません。

参照元:厚生労働省「令和元年賃金引上げ等の実態に関する調査の概況」

ベースアップの問題点

ベースアップは労働者側からすると、社員全員の底上げになるので嬉しいことです。しかし、企業側にとっては全員分の人件費が上がるため負担が増えてしまいます。
定期昇給なら、労働者の数や勤続年数から負担が想定できますが、ベースアップは労働者との交渉によって変わるため、負担の想定がしにくいのです。

このベースアップを労働者が企業に対して交渉するのが「春闘」です。春季闘争の略で、毎年春ごろに労働組合と企業側がベースアップや労働条件の改善のために交渉を行うことを指します。
毎年2月ごろから大手の春闘となり、その後中小企業の労働条件改善交渉があって3月ごろには終わります。意外ですが、公務員にも春闘があります。

春闘終了後には、厚生労働省や日本経団連が妥結状況などを発表するため、企業側も利益が出ているなら受け入れざるを得ないというのが現状のようです。

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定期昇給の問題点

長らく日本の賃金制度を支えてきた定期昇給制度。しかし、この制度を見直したり、廃止したりする企業が増えていると言います。
それは、年齢や勤続年数、昇格などによって自動昇給する制度は、努力して実績を積み上げた人にとってモチベーションを下げる要因となり、昇給する立場にある人も「やらなくても上がる」ためモチベーションを維持しにくいからです。

また定期昇給制度の場合、社員の能力や実績と給与額にギャップが生じ、優秀な人が不満を持つことになってしまいます。
それでも、2014年の公益財団法人日本生産性本部が発表した調査結果によると、60%以上の企業が定期昇給制度を採用しているということです。しかしながら、定年まで昇給が続くのは全体の17.6%しかありません。

つまり定期昇給制度があっても、一定年齢までで賃金上昇は止まるということです。その年齢は、46〜50歳が26.5%、51〜55歳が30.1%となっており、約半数が40代後半で基本給の上昇が留まる傾向にあるようです。

まとめ

ベースアップと定期昇給の違いは、昇給が全体なのか個人によるのかという点です。全員の基本給が上がるベースアップと、個人の年齢や勤続年数、実績などに応じて昇給する定期昇給。
求人にも「昇給○回」と記載してありますので、将来のビジョンとしてどのくらいの給料がもらえるようになるかという指標にしてみてはいかがでしょうか。
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