固定残業制度について、正確に理解しているでしょうか?
実は働く人はもちろん、雇用側もきちんと把握できていないことがあるのが、この固定残業制度。
みなし残業との混同や、求人広告への記載方法でよく間違っていることがあるのです。
今回は、固定残業代について詳しく解説し、求人広告への正しい表記の仕方やみなし残業との違いなどを紹介していきます。
固定残業制度をしっかり理解し、適切に導入しましょう。
固定残業制度とは?
固定残業制度とはどのようなものか、まずはきちんと理解しましょう。
固定残業制度について
固定残業制度とは、実際に何時間残業したかに関わらず、「一定時間分」の時間外労働や休日労働、深夜労働に対し、毎月支払う定額の残業代のことです。この制度については、あらかじめ従業員に通知し、合意しておかなければなりません。
制度導入のためには、固定残業代が出る「一定時間」を事前に決めておく必要があり、実際の残業時間がこの「一定時間」を超えた場合には、超過分の時間外手当を支払う必要があります。
例えば、「一定時間」を20時間と設定していた場合、20時間までの残業には余分な手当は付きません。しかし、残業が合計で30時間となった場合には、超過した10時間分の時間外手当を支払わなければなりません。
そのためには、雇用側も労働者も「一定時間」を何時間に設定されているか、また何時間残業をしたかを把握しておく必要があります。
固定残業代の設定時間に満たなくても支払わなければならない
固定残業制度は、時間外労働があってもなくても「毎月定額で支払う」という制度なので、設定時間を超えなくても同じ金額を支払わなければなりません。
例えば、固定残業代20時間分が設定されている場合、10時間しか残業をしなかったとしても、20時間分が支払われるのです。もちろん、残業がゼロだったとしても、支払う必要があります。
雇用側としては支払う必要がないと思うでしょうが、制度として導入した限りは、支払う義務があるので注意しましょう。
固定残業代は何時間まで設定できる?
労働基準法により、1日の労働時間は8時間・週に40時間と定められています。これを超える時間外労働は原則としてできませんが、労使間で36協定を結び、労働基準監督署への届出があれば、最大で月45時間、年間360時間までの時間外労働が認められます。
36協定を締結していれば、固定残業代を45時間分までは設定することが可能です。
ただし、2019年に働き方改革関連法が施行されて以降、みなし残業や超過に気づかない場合でも、罰則の対象となるため注意してください。
固定残業制度には、表示義務がある
固定残業制度を導入している企業は、求人票や募集要項、また就業規則や雇用契約書にも明記する必要があります。それぞれについて詳しく説明します。
求人広告や募集要項への表示義務
固定残業制度を採用している場合は、求人票や募集要項へ以下の3点を表示しなければなりません。
①基本給の額(固定残業代を除いた分)
②固定残業代の労働時間数とその金額
③固定残業時間を超える時間外労働、休日労働、深夜労働に対する割増賃金を追加で支払うという説明
この表示義務は、若者雇用促進法(正式名称:青少年の雇用の促進等に関する法律)によって義務化されました。固定残業代と給与との区別がつきにくく、雇用主と従業員の間でトラブルがよく起こったという背景があります。
求人票に固定残業制度を正しく表記しなかったらどうなる?
若者雇用促進法により、ハローワークでは労働関連法に違反した求人を、一定期間受け付けないようにしています。また職業紹介事業者においても、同様の取扱いをしています。
求人メディアでもルール違反の求人広告は掲載を断っているケースが多いです。
法律上の罰則はありませんが、固定残業代の表記が適切でなかったため、裁判所が従業員が働き始めた日まで遡って残業代の支払いを命じたというケースもありました。
固定残業制度の表記の仕方
固定残業制度の適切な表記の仕方は、以下のようなものです。
- 基本給:月給28万円
- 固定残業代4万円(30時間相当分を含む)
- 30時間を超える時間外労働分については割増賃金を追加で支給する
例えば同じ内容でも「基本給:月給32万円(固定残業手当を含む)」と表記したり、固定残業が何時間かが示されていないのに「固定残業分を超える割増賃金は別途支給」としたりするのもNGとなります。
固定残業制度は就業規則・雇用契約書にも明記!
固定残業制度は、求人票だけでなく就業規則や雇用契約書にも以下の内容を明記する必要があります。これから導入する企業では、必ずチェックしてください。
- 固定残業制度は時間外手当の定額払いであり、他の賃金とは区別されている
- 固定残業代に含まれる時間外手当は何時間分か
- 固定残業分の時間外労働を超過した場合には、追加で時間外手当を支払う
固定残業制度とみなし残業の違い
固定残業制度とよく混同されてしまう「みなし残業」との違いを見ていきましょう。
みなし残業とは
一般的に言う「みなし残業」には2種類あり、その1つがこれまで説明してきた「固定残業制度」です。そしてもう1つが「みなし労働時間制」と呼ばれるもので、さらに3つの種類に分けられます。
【事業場外労働】
営業職やテレワークなど、社外での業務が多く、雇用主が労働時間を正確に把握することが難しい場合に採用されます。社内で仕事をした時間も、みなし労働時間に含まれます。
【専門業務型裁量労働】
研究者や情報処理システムのエンジニア、弁護士、公認会計士、デザイナー、編集者、コピーライター、インテリアコーディネーターなど、労働時間の配分や業務進行などについて、雇用主が細かく指示や管理を行うことが難しく、社員の裁量に任せて効率的に業務を遂行するような職業に適用されます。厚生労働大臣から19種類の特定専門職が指定されています。
【企画業務型裁量労働】
専門業務型裁量労働と同様に、労働時間の配分や進捗を労働者個人に任せることで、業務の効率化や成果を計る場合に適用。対象業務は、経営企画、財務・経理、人事・労務、広報、営業領域での調査・計画・企画・分析などの分野に限られます。
固定残業制度との違い
「みなし残業」とされるものは、上記のように労働時間の計算が難しい職種や働き方において採用される、特定の労働時間を働いたものと「みなす」制度です。
一方、固定残業制度とは、あらかじめ一定の残業時間を見込んで決めておき、毎月定額を支払う制度。
1番の違いは「みなし残業」は、認められる職種や働き方が限られるということです。
「固定残業制度」は特に職種などに制限はないため、導入するのは難しくありませんが、前述したように就業規則や雇用契約書への明記、求人広告や募集要項への明記も求められます。
また、あらかじめ決めた固定残業の時間を超えると不足分を支払いますが、その時間に満たない場合でも定額を支払う必要があるため、固定残業制度の導入がメリットとなるかデメリットとなるかはシミュレーションしてみましょう。
まとめ
固定残業制度が導入されている、またはこれから導入しようという場合、制度の内容をしっかり把握し、従業員にも周知する必要があります。みなし残業との違いも理解して、両者間でトラブルが起きないよう気をつけましょう。
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